全国協同集会in兵庫 第3分科会 労働の人間化とディーセント・ワークにて
「倒産争議から生まれた編集プロダクション ワーカーズコープアスラン」報告 杉村和美
【アスランの立ち上げ経緯】
1995年に、勤めていた編集プロダクションが倒産し、労働組合を結成して5年半の倒産争議を行いました。2000年5月に争議が解決。その解決金を元にワーカーズコープアスランを立ち上げました。編集プロダクションとは出版物の編集制作会社です。出版社ではないので、本や雑誌の発行はしません。企画・編集の実務をやっています。近年「アウトソーシング」という言葉をよく耳にしますが、出版業界では70年代の終わりくらいから編集プロダクションが作られ始め、古い歴史を持っています。
勤めていた編集プロダクションには、編集者のほか、デザイナー、イラストレーターがおり、争議中は職場を占拠して、自主生産をしていました。その後争議は解決しましたが、会社は破産したので、よその会社に就職するかフリーランスになるしかありません。でも、一緒に闘ってきた仲間がばらばらになるのは惜しいねと、ワーカーズコープを立ち上げることにしたのです。
会社が倒産したとき、雇用労働者には労働債権があり、これは優先債権となります。しかし、一緒に仕事をしていたフリーランスのライターさんやカメラマンたちは一般債権なので、優先順位は低く、ほとんど支払われることがありません。私たちのケースも会社に財産が残っていなかったので労働債権も満足にとれる状況ではなかったのですが、私たちはフリーの方も一緒に働いてきた労働者だと主張して、一緒に倒産争議を闘いました。そして、得た解決金は自分たちだけでなく、フリーランスの方にも分配しました。そうした経過もあり、ワーカーズコープを立ち上げるときに、労働組合員だけでなく、出版のフリーランスにも広く呼びかけて、ネットワーク型のワーカーズコープを立ち上げました。
私が勤めていたときに経験したのは、経営者は、経営が困難になると労働者にしわ寄せをするということです。倒産という、そこで働いている人の仕事と生活に打撃を受けるような決定が、自分たちの全く知らないところで決められて、ある日突然「破産申請したから」と言われることにも、非常に憤りを感じました。働き方にしても、自分が与えられた仕事をやっているだけでは全体が見えません。また、勤めていた職場では正社員と契約社員とパートがいました。私は契約社員だったのですが、雇用形態の違いはあっても、皆が納得のいく待遇の職場にしたいという想いもありました。ともかく、経験したことを反面教師にしつつ、大きな理想と希望を持って立ち上げたのです。
【ワーカーズコープアスランの仕組み】
アスランはネットワーク型ワーカーズコープです。一般的には、「出資」「経営」「労働」の三位一体となるのがワーカーズコープなのですが、私たちの場合は常勤組合員が4人いて、フリーランス組合員がいて、出資して支えてくれる組合員がいます。こういう形態にしたのは、出版業界の働き方と関係があります。
フリーランスは個人請負という働き方です。今盛んに言われている偽装請負とは異なります。法律的には「個人事業主」となりますが、私は広い意味での労働者であると思っています。出版業界には、このような働き方をしている人が非常にたくさんいます。デザイナーさん、ライターさん、イラストレーター、カメラマン、校正者……と、いろんなフリーランスの協力によって1冊の本ができるのです。しかし、フリーランスは、立場としても弱いし不安定な働き方です。収入は定期的ではありませんし、連載記事を持っていたとしても、ある日突然打ち切られる、というようなこともよくあります。ですから、フリーランスが協同することで、受注窓口も広がると思うし、仕事のやりくりもできるし、何かあったときに問題解決に向けて知恵を絞って交渉能力もあがる――アスランがそのようなフリーランスを束ねる存在になれたらいいなと考えました。そこで、設立趣旨には「出版関連のフリーランスのネットワーク化による仕事の創出とともに納得する仕事を追求します」と掲げています。
【分配をどうするか】
出版業界の構造は、本を出版する出版社→編集実務を担当する編集プロダクション→執筆やデザイン、イラストなどはフリーランスに、というふうになっています。私たちはこれを“出版の三重構造”と呼んでいます。本来は、編集プロダクションやフリーランスの協力なしに出版物はできないわけですから、出版社にとってはパートナーなのに、さまざまな労働条件、待遇は全然違います。私も出版社の同じ年代の編集者と賃金を比較すると、3分の1くらいです。
アスランではどういう仕事の仕方をしているかというと、アスランで企画を立てて出版社に営業をし、企画が通れば仕事が発生します。仕事が発生したらメーリングリストで「こういう仕事をやれますか」と募集をかけ、応募者のなかでチームを組んで仕事をするというシステムをつくっています。ですからフリーランスの組合員さんはアスランの仕事だけではなくて、独自で別の出版社や編集プロダクションの仕事もしています。そういう意味では、ゆるやかだけども広いネットワークをつくっていて、今、フリーランスの組合員さんも含めて80名くらいです。
ゆるやかなつながりというのは、ネットワーク型の良い面だと思うのですが、デメリットもあります。それは、普段顔を合わせて働いていないので、いろいろな問題の共有化が難しいことです。課題があればメールで流すのですが、なかなか双方向の話し合いの場が持てないので、その点は非常に難しさを感じています。
今年度の総会で提案して議題になったのは、分配をどうするかということです。常勤組合員の中での賃金をどうするかについては、いろいろなものさしを入れるとややこしいので、経験、職種(総務経理・編集者)、年齢にかかわらず一律の時給で計算しています。これがベストだと思っているわけではなく、いろんな意見も出るので、試行錯誤をしながらやっています。常勤の間では、いつも顔を合わせているので、いろいろな議論があっても話し合いでやっていけます。
【出版の構造不況の中で、生き残っていくことと労働者の権利】
問題はフリーランスに対する料金をどう設定するのかということです。アスランは「有限会社」の法人格を持っているので有限会社の経理処理でやっています。そうすると、経理上はフリーランスへの支払いは外注費になります。去年は外注費が50%近くでしたが、普通の経営からいうと、外注費は30%くらいに抑えないと健全経営とはいえないのです。しかし、ワーカーズコープアスランの仕組みからいうと、フリーランスにたくさん仕事を出したということになります。アスランの役割のひとつは仕事の創出ですから、それはある程度確保しないといけない。そこには、常勤の給料とフリーランス組合員への料金のバランスをどうするかという問題が常にあります。つまり、同じ組合員のなかで、常勤とフリーランスの利益が相反しているといえます。
今は出版社からの受注金額がどんどんコスト削減されている状況があり、これは、出版社(出版社の社員)とも利害が相反する関係にあるわけです。フリーランスと私たち常勤は総会で顔を合わせるので、議案ではこういう問題があるということを提起し、今年の総会ではかなり熱い討論が行われました。利害の対立があるとしても、「アスランを発展させていく」という視点から問題の解決をしていこうと、フリーランス組合員さんから言っていただきました。総会で顔を合わせて話し合うことで、難しい問題も前向きに考えていこうという気持ちになりました。
なぜこういう悩みが大きな議題になるかというと、出版産業が斜陽産業だということがあります。景気が回復してきたと言われるけれども、出版業界は相変わらず不況です。本が売れないという現状があります。そのため、出版社はコスト削減を進めていて、私たちは、低価格・短納期競争のなかに投げ込まれています。総会では、その矛盾の解決について、今ある小さなパイの取り合いではなくて、営業の強化によってアスランらしいより質の高い仕事を取り、価値を高めていくことで、パイ自体を大きくしていこうということになりました。しかし、それを実現するのは非常に難しいというのが実情です。
【過密労働の克服】
もう一つ問題になっているのは、私たちは「食べていける賃金を」ということでワーカーズコープの運営を始めましたから、常勤は時給1300円をベースに給料を設定しています(8時間労働だと約20万円)。それを支払って、さらにフリーランスに、そんなに安い金額ではない仕事をまわしていこうとすると、常勤組合員がどんどん長時間労働で過密労働になっていき、精神的負担も大きくなります。
私たちが雇用労働者だった頃は、労働組合として要求すればよかったのですが、今は、仕事をとってきて、経済基盤を作り出しながら、自分たちやフリーランス組合員への労働条件(賃金・料金保障)をつくりだす必要があります。その点に、非常に精神的負担が高まっている原因があり、大きな課題となっています。
私は、ずっと編集の仕事をしてきましたし、フリーランスの仕事起こしという意味でも、このワーカーズコープアスランを維持・発展させていきたいという意気込みをもっています。この仕事に、社会的意義をすごく感じているからです。しかし、そうであればあるほど頑張ってしまうのです。誰かに強制されて、というのではなく、自分自身が仕事は仕事と割り切れず、突き進んでしまう。仕事にやりがいや社会的意義を持つことはすごく大事なのですが、それが度を越えてしまうと、自分の生活と仕事がぐちゃぐちゃになってしまうという状況があります。
特に私はそうなってしまう傾向があるので、業務会議では、どうにかしなければいけないと話し合っています。自分でコントロールできないので、ときどき、強制的に休みを入れられたりしています(笑)。生協や農協でも保険の勧誘業務などの仕事で、若い人たちがノルマを課せられるという問題があるようなので、協同組合であっても労働は労働なのだということを一本立て直さないといけないのではないか。ワーカーズコープが「出資」「経営」「労働」三位一体だといっても、やはり、私たちは労働者なのだという原点に立たなければいけないのではないかと考えているところです。
そういう意味では、この協同集会で働き方を考える分科会が持たれたことは、たいへんタイムリーだと思います。他のワーカーズコープでも同じような問題を抱えているのではないでしょうか。ワーカーズコープだからこそ、もう一度、自分たちの働き方を考えなければいけないのだと思います。
【つながること、社会的運動にしていくこと】
受注価格の低下の話に戻りますが、これは、構造的矛盾ですから、アスランの自助努力だけでは解決できません。私が今も加盟している出版労連には、フリーランスの労働組合(出版ネッツといいます)があります。構造的矛盾に立ち向かうには、雇用労働か個人請負労働か、協同労働かを問わず、ともに協力して、食べていける賃金を払えるような受注価格を、という運動を進めていく必要があると思います。
「労働の商取引化」が進んでいると指摘されています(中野麻美著『労働ダンピング』岩波新書)。私たちの現場はまさにこうした状況にあります。これを規制していけるのは団結権だと思うのです。雇用労働者だけが団結権を持っているのではなく、全ての労働者に団結権があります。この団結権を使って、市場への規制をしていくことができないかと、考えているところです。
今年の6月にILOから「雇用関係勧告」(雇用関係が不明確な労働者の保護に関する勧告)が出ています。請負労働者の保護を考える勧告です。そういうものも使い、フリーランスとも出版社の労働組合とも連携しながら、日々の仕事の中でアスランの経営基盤を固める運営をやりつつ、社会的な運動にも取り組んでいきたいと思っています。
【最後のまとめ】
公共サービスの民営化・外注化に関しては、入札の中に総合評価入札を取り入れたらどうかという提案をした『入札改革』(武藤博己著、岩波新書)という本を企画・編集しました。現在、総合評価制度の評価基準に、環境問題は取り入れられるケースが出てきていますが、「公正労働」が取り入れられているという話は聞きません。これを評価基準に取り入れるという取り組みが必要なのではないかと思います。
では、私たち民間企業のアウトソーシングの現場で働く人にとってはどうか。企業の社会的責任(CSR)という視点からの取り組みができるのではないかと思います。ベルギーには「ソーシャル・ラベル」というラベルがあり、これは、公正労働基準を守っている製品に貼られるラベルだそうです。グローバル化の進む現在、たとえば、ナイキというアメリカの会社の製品は、実際にはパキスタンでつくられていたりします。製品がつくられる過程に児童労働や強制労働がないかとか、そこをチェックして公正労働基準が守られているものにラベルを貼るシステムです。日本でも、環境にやさしい「エコラベル」は普及してきていますし、たとえば納豆を買う場合にも、消費者は、遺伝子組み換えではないか、農薬はどうか、生産者はどこかということをチェックするようになってきています。それと同じように、人間らしい働き方・労働条件のもとでつくられた製品かどうかを、チェックするシステムをつくっていけないものかと思うのです。働く者としても消費者としても生活者としても、そういう視点を持たない企業は成り立っていかないのだという価値観を作り上げていくことが必要なのではないかと思っているところです。
アスランについての補足ですが、うちも常勤組合員は女性ばかりです。週2日働く人も週4日の人もいます。週4日働いている人の子どもが大学受験だったとき、1ヵ月間は、週1回出社して、あとは自宅で働く、ということもありました。このように、働く日数、時間、賃金も話し合いで決めています。そういう意味では、生活に合わせた働き方を話し合いで決めていける、そこがワーカーズコープのいいところではないかと思っています。
最近、ワーカーズコープについて話してほしいと、学習会などに招かれることが増えていますが、「なかなか大変ですよ。でも、問題を解決していくことが面白いと思える人には、こういう働き方はいいですよ」というような話をしています。編集の仕事自体は面白いのですが、運営面では次から次へと難問が出てきます。それを自分たちが話し合いで解決していく、そこにワーカーズコープの面白さがあるということを最後に申し上げておきたいと思います。