「ワーカーズコープにおける労働と分配」:『協同の発見』2005年10月号より、転載
8月8日、ワーカーズコープアスランの第6回総会が開かれた。単年度黒字となり、ほっと胸をなでおろしたところだ。だが、黒字になりさえすればそれでよし、とするわけにはいかない。6年目に入った今期は、「よりワーカーズコープらしい組織(事業体)にしていくこと」を目標として掲げた。単に仕事をするだけの組織ではなく、現状で抱える問題を、働く人自身の手で解決できるシステムを持った組織にしていこうというものである。
アスランが抱えている課題のひとつに、「分配をどうするか」がある。言い換えれば、「公平・公正な給与体系、料金体系はどういうものか」ということだ。
出版業界ではフリーランスという形態で働く人が多いことから、アスランはネットワーク型のワーカーズコープにしている。アスランの事務所で働く常勤組合員とフリーランス組合員がいて、仕事が発生したらメールでその情報を流し、応募者の中から選ばれたフリーランス組合員と常勤組合員がチームを組んで仕事をするというシステムだ(くわしくは、アスランのホームページをご覧ください)。前置きが長くなったが、「分配問題」の1つ目として、こうしたアスランの組織形態から発生する、働き方の異なる組合員の間の分配をどうするか、という問題がある。
フリーランス組合員への支払いは、アスランの会計上は「外注費」となる。一般に企業では、外注費はできるだけ抑えたほうがいいということになるが、アスランではそうはできない。総会では、毎回次年度の事業計画案と予算案を提出するが、外注費の“適正な比率”には、いつも頭を悩ませる。
「分配問題」の2つ目は、常勤組合員の「給与体系」についてである。アスランでは設立以来、基本として「労働時間」をベースにした給与体系を採用している。フルタイムの人もパートタイムの人も、同じ「時間給」で計算する。年齢、経験年数による差も、職種や「業績」による差も設けていない。シンプルな給与体系であるが、これが「公平な」給与体系かといわれれば、そうとはいい切れない。「公平さ」を測る視点はいくつも存在するからだ。それらを取り入れるとなると、たくさんの「評価基準項目」を設けなくてはならなくなる。だから、とりあえずはこの方式でやっていくつもりだ。
「分配問題」の3つ目は、フリーランス組合員の間での仕事の配分と料金をめぐる問題だ。仕事が発生したらその情報を流すというところまでは「機会の平等」が保障されているが、仕事の依頼となると、また別の基準がある。限られた予算の中で質の高いものを制作するには「経験」や仕事の内容に応じた「質(レベル)」も考慮に入れて選ばなくてはならない。組合員の得意とする分野によっても違う。また、料金についても、ひとつの仕事ごとに決算し、配分するため、仕事の受注金額によって、同じような仕事であっても、割のよい仕事とそうでないものとが出てくることになる。
こうした問題は、いずれも一朝一夕に解決できる問題ではないが、少しずつでも改善する方向で取り組んでいる。たとえば、最低料金の設定など。今後、もっとフリーランス組合員に積極的に運営に関わってもらうことで、さらによいアイデアを出し合えるようになるだろう。
アスランの外へと眼を向けると、一般企業の経営者たちは、能力給や成果給の導入により、社員の間に格差を持ち込むことに余念がない。また、パート、派遣、契約社員、さらには請負労働まで、実にさまざまな労働形態が導入されている。労働形態が異なると当然給与体系も異なり、そこには、歴然とした所得の格差が持ち込まれることになる。日本が近年、「不平等社会」「格差社会」になっているとの指摘がなされて久しいが、その傾向はますます拍車がかかっているように見える。
最近、『働くということ』(ロナルド・ドーア著、中公新書)を読んだ。なぜ格差が広がったのか、それに歯止めをかけることは可能か、について論じている本だが、そのなかで著者は、「不平等拡大の傾向が当たり前のこととされてきており、その不平等の容認が『何が公正か』についての考え方に重大な変化をもたらしつつある」と指摘している。すぐに社会全体を変えることは不可能だが、個々の事象(ミクロ、マクロを問わず)について「何が公正か」を問い続けること、そして自分の足元から「不平等社会」「格差社会」に立ち向かう努力をしていきたいと思っている。